なぜ絵本を作ったのか

私たちは性教育を推進している団体です。
性教育が目指すのは、主体者として生きていける人を育てることです。
主体者として生きていくために必要なことはいくつもありますが、そのほとんどは私たちも推進する「包括的セクシュアリティ教育」の範疇に入っています。
性教育というと「避妊」「家族計画」「性感染症予防」が真っ先にイメージされるかもしれませんが、その手前には「人間関係」「コミュニケーション」「自分を大事にすること」「他者を尊重すること」「権利や人権の話」などの重要なテーマがあり、それらも「包括的セクシュアリティ教育」の中で扱われているのです。
この絵本はそれらの重要なテーマのうちのいくつかをストーリー仕立ての絵本にまとめ、子どもたちに感じ取ってもらいやすくしました。この絵本に触れた子どもたちが、難しい理屈や概念は分からなくても、「自分を大事にすること」や「人の考えを尊重すること」の重要性を感じ、他者のことも誰かのことも大事にできる人に育ってくれたらいいなと思っています。

絵本のあらすじ

川崎市のご当地アイドル「川崎純情小町★」に将来入りたいと熱望する主人公・ゆめ は、今日も友達のかなえとともに川崎純情小町★ごっこをして遊んでいます。
するとそこにクラスの友達がやってきて「男の ゆめ が女のアイドルになりたいなんて変だよ」「入れるわけないよ」と言われます。
涙ぐむ ゆめ はその場を走り去り、二ヶ領用水の岸で悲しみにくれます。
するとどこからか虹色の かも がやってきて、ゆめ をどこか別の世界に連れて行きました。その世界では、住んでいる人たちが自分のやりたいこと・なりたい姿を叶えています。
その様子を見た ゆめ は「自分らしさを認め合えたら、誰かのことを『へん』だと思うことがなくなるのだ」ということに気付きます。
ゆめ は、かも やその仲間たちと元の世界に戻ってきます。その姿に友達たちも感じることがあったようで、ゆめ に変だと言ったことを謝るのでした。

絵本が伝えるメッセージの背景にある課題

「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査(平成25年度)」を見ると、日本の若者は「自己肯定意識」「行動への意欲」「心の健康状態」「社会を変えられるかもしれないという意識」等において、諸外国の同年代よりもネガティブな傾向にあるそうです。
例えば「社会現象が変えられるかもしれない」「将来に希望がある」といった項目の数値が低いことは、主体者として生きていく主導権を放棄しているのと同様とも言えるでしょう。

また、「第5次川崎市子どもの権利に関する行動計画」に関連して行われた「子どもの権利に関する実態・意識調査(平成 26(2014)年 3 月実施)」において、「自分が好きか」という質問に「好き」または「だいたい好き」と答えた小学生世代は 81.5%にのぼります。一方で、中学生世代は 64.9%、高校生世代は 64.8%となっており、思春期を迎えた中高生世代の3割以上は自分のことが好きではないと感じていることが伺えます。
中高生世代の自尊感情や自己肯定感の低下は、健康的な発達の自然な経過でありそれ自体は心配することではありませんが、やはり主体者としての意識を育むうえで「自分の人生は自らが決めていい」「(自ら決めることを大切にするのだから)他者が決めた他者の人生についても尊重する必要がある」といった価値観を獲得している必要があるでしょう。
『ゆめのかなうまち』はそうした価値観の獲得に一役買うはずです。

絵本を読まれた方は…

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